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2017.01.12 レポート

波の上の隠れ家で楽しむ映画体験〜「海に浮かぶ映画館」        

1年に3日間だけオープンする、小さな隠れ家のような「海に浮かぶ映画館」。
12月上旬に現れるこの映画館はなんと船の中!穏やかな波に揺られながら作品を鑑賞してきたので、その模様をレポートします。


まるで秘密の隠れ家のような、小さな映画館

「海に浮かぶ映画館」は場所が明かされない不思議な映画館。当日はスタッフが最寄り駅で出迎え、会場まで誘導してくれます。
歩くこと15分ほど、船に乗り込み鑑賞まで静かに待ちながら船内を見回すと、まさに秘密の隠れ家のような空間がそこにありました。想像以上に広いスペースには客席、目の前にはスクリーンが設置されています。暖められた船内は冬の寒さを感じることもなく、ブランケットや温かい飲み物も用意され、細やかな気遣いが嬉しい会場です。


「海に浮かぶ映画館」会場の様子

場所もユニークですが、作品にもここならではのこだわりが!
企画のきっかけが「フィルム作品を船で上映する」だったため、毎年必ず16mmフィルム作品が上映されます。「フィルムを知らない若い世代も多く、ここにも意義がある。」とは館長・深田さん。過去にフィルムを触らせてあげた高校生が、今はスタッフとして参加しているそうです。
また、あまり知られていない良作も毎年上映されています。

 

『なみのおと』上映×トークショー

プログラムについて「テーマは決めず、1つでも魅力を感じる瞬間があれば上映します。違う魅力の映画が存在することも”映画の豊かさ”のひとつ。その魅力に出会ってほしい。」とおっしゃる深田さん。
今年は”ドキュメンタリー”と”フィクション”をダイナミックに横断する、多彩な作品が揃いました。

伺ったのは最終日の最終回。2011年3月11日に津波被害を受けた、三陸海岸の人々の対話を撮り続けたドキュメンタリー『なみのおと』の上映と、プロデューサー・芹沢高志さん×館長・深田隆之さんのトークショーを開催。この日は穏やかな快晴で、静かな波に揺られながら『なみのおと』鑑賞(!)という貴重な体験となりました。
普段はアートプロジェクトに関わる芹沢プロデューサーが手がけた本作は、当時の記録資料としても価値の高い作品です。


芹沢高志さん(左)と館長・深田隆之さん(右)によるトークショー

『なみのおと』は酒井耕(さかい こう)・濱口竜介(はまぐち りゅうすけ)2人の監督により作られた東北記録映画三部作の1作。被害の直接的な映像は一切なく、対話のみで描かれる震災の記憶と日々の生活。プライベートにまで入り込み、登場人物から直に話を聞くような錯覚を覚えながら、その”語り”に引き込まれます。
トークショーでは「対話のように、語り継ぐように上映したい。震災の頃は多くの映像が撮られ消費された。監督達と、100年後にも見られる作品は?と話し合った。」とコンセプトを聞くことができました。

 

空間と作品、作品と人の関わり方

トークショーは「海に浮かぶ映画館」の空間と作品をきっかけに、更に興味深い話へ。
「こういう空間で受け取り手(見る人)も、主体的に映画に関われないか考えている。」と深田さん。
芹沢さんは「都市計画に関わりアートの世界に入った。劇場やホールで良作をかけるのはもちろんいいこと。作品が普遍的なら、見る場所で作品が変わってはいけない。でもそれだけでいい?とも思う。場所やアプローチで価値が変化してもいいのでは?それがホールの外に作品を出す理由。アーティスト個人で完結せず、人や街との関わりで変化するのもいいと思う。」と、真摯に語られました。

確かに、駅から会場まで歩くことも含めて”上映会”。アプローチで映画の感じ方は変わるのかもしれません。

 

海に浮かぶ映画館の”体験”と”映画”

「面白い上映会やフェスのような映画体験、それは様々な垣根を越え開かれた上映形式。今後はネットを含めた”体験的”映画鑑賞が増えるのかもしれません。
ただ、自分は”映画が好き”からスタートしたので、自律した映画の面白さを大事に、上映形態の変化で映画の魅力は変わらないことを伝えたいです。イベント要素が強くなると、映画が体験に負けてしまうかもしれません。それは作品の善し悪しと関係ないので、”体験”と”映画”のバランスが重要では?と考えています。」
とは深田さんの言葉。


過去の上映会の様子


海に浮かぶ映画館 information

海に浮かぶ映画館はまだまだ小さな自主上映会。しかし、来ていただいた方にはこの映画体験を覚えていてほしいです。特殊な環境で積極的にイベントを楽しんでくださるお客さまに、毎年とても感謝しています。
名前は聞いたことがあるけど来たことがない方は、ぜひ一度足をお運びください。
館長・深田隆之

公式サイト:https://umi-theater.jimdo.com/


会場も作品もユニークですが、もう一つのオススメはスタッフの方々!とても温かな対応で迎えてくれる、ホスピタリティーを感じる上映会でした。
皆さんも時には鑑賞スタイルを変えて、空間×作品を楽しんでくださいね。