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2016.01.21 レポート

映画が生まれた頃を想いながら
サイレント映画を楽しむ

2015年クリスマス前の12月19日(土)に、サイレント映画イベント「聖なる夜の上映会」に行ってきました。 今年で9回目を迎えるこのイベントは、サイレント映画ピアニストとして各地でご活躍中の柳下美恵(やなした みえ)さんが主催する、ピアノ伴奏付きサイレント映画上映会。上映前には古書店や雑貨店の商品を眺めながらお茶を飲むこともできる、ミニ蚤の市も開催。

今回の会場は根津教会今回の会場は根津教会

2014年までは本郷中央教会で開催されていましたが、今回は1919年に建てられた根津教会が会場となりました。谷根千と言われる下町の風景に溶け込んだ小さな教会は、クリスマス用のデコレーションがとってもアットホーム。洋風の木造建築に瓦屋根という、教会なのにどこか日本を感じさせる外観です。 前回までの会場である本郷中央教会には元々映写室や舞台があり、説教をわかりやすく伝えるために”幻燈”も使われていたそうです。映画館ができたのは大正の頃。それ以前はこのような古い教会が、文化発信地の一つとなっていたのかもしれません。

文京区とのご縁で上映会の企画をスタートさせた柳下さん。作品選びについてお聞きすると、「まずはフィルムやDVD(上映権)が手に入るか、フィルムの場合の保存状態などがクリアされて初めて上映できるんです。」とのお返事。デジタル時代の現代から見れば、映写機でフィルムを流す作業はとても手間が掛かるように思えます。既にフィルムや映写機を知らない方もいるかもしれません。しかし映画は長い間フィルムと共に残り、そのフィルム=作品は大切に保管されてきました。

ミニ蚤の市には可愛らしい雑貨もミニ蚤の市には可愛らしい雑貨も

映画が誕生して約120年のうちの最初の40年間、サイレント映画は多くの人に楽しまれていました。現在は音楽伴奏入りDVDでも作品を観ることはできますが、正しくはピアノやオーケストラの生演奏を付けて鑑賞するスタイル。

今回の上映作品は『極北のナヌーク』(1922年製作)。撮影自体は1912〜1919年に行われ、「根津教会と同級生」と柳下さんは言います。 『極北のナヌーク』は、極寒の地に暮らすイヌイット族のナヌーク家を捉えた記録映画です。「ドキュメンタリー映画」という言葉はこの作品をもって生まれました。監督は” ドキュメンタリー映画の父”と呼ばれるロバート・J・フラハティ。撮影中に演出もあったのでは?とも言われていますが、ドキュメンタリー映画の概念さえない時代です。撮影の多くが謎に包まれていますが、遠く離れた文化の違う私たちに、彼らの暮らしを教えてくれた映像はとても貴重で、その事実に変わりはありません。

カタカタカタ……という映写機の音から上映スタート。この音がなぜかとても懐かしく、ピアノ演奏と共にモノクロ映像がスクリーンに映し出されます。 極北の厳しい自然の中を生き抜くため、すなわち食べ物を得るために移動しながら生きる一家。雪と氷の道を進むソリ犬、セイウチやアザラシとの死闘、イグルーと言われる雪の家で眠りにつくナヌーク達ーー”生きるために食べる”というシンプルな価値観の生活は、自分が忘れてしまった生き物としての力強さを見せつけながら、一方で家族はいつもニコニコ明るい表情。その笑顔を見ていると、彼らは当然のこととして自然と共存していて、私達の方が自然から離れてしまったのでは?などと様々なことを考えていました。 「ホームムービーに映る家族のように、ナヌーク家の笑顔が本当に自然です。親しい人にしか見せないような表情を見ることができます。」と柳下さんはこの作品の魅力を語りました。15ヶ月もの間、彼らと過ごしたフラハティ監督。撮影中には親しい家族と触れ合うような、心の交流があったのかもしれません。

ピアノを弾く柳下さんピアノを弾く柳下さん

サイレント映画において、登場人物の心情や情景を物語るのに音楽は大きな助けになります。場所や時間を超えて映像世界に入っていけるのも、作品に彩りを添える音楽のおかげかもしれません。私自身、100年も前に撮られた事を忘れてすっかり映画世界に浸っていました。 最近はシネマコンサートなど「映画と音楽」の新しい楽しみ方が生まれていますが、映画が生まれた初期はこんな風に鑑賞されていたんだな、と感じるイベントでした。ぜひ皆さんもサイレント映画を味わってみてください!


サイレント映画ピアニスト 柳下 美恵 (ヤナシタ ミエ)

武蔵野音楽大学ピアノ専攻卒業。1995年に朝日新聞社主催の映画誕生100年記念『光の誕生 リュミエール!』山形国際ドキュメンタリー映画祭でデビュー以来、国内海外で活躍。欧米スタイルのサイレント映画伴奏者は日本初。劇映画、ホームムービーなど全ジャンルの伴奏をこなす。2006年度日本映画ペンクラブ奨励賞受賞。
シリーズ企画に“柳下美恵のピアノdeシネマ”“J&B 美恵’sサイレント映画”がある。
トーキョー・ノーザンライツ・フェスティバル2016にも参加。
TNLF公式サイト http://www.tnlf.jp/movie.html


 

(シネマトリップ編集部)